ちよう、はたり 志村ふくみ

物凄く良かったです。

ちよう、はたり

ちよう、はたり

志村ふくみさんは人間国宝の染織家、随筆も書かれている方です。
染織家としても随筆家としても賞をとられていて、本も沢山、出版されています。

どなたかの作品の文庫本を読んだときに、本文ではなく解説の中に志村さんの本からの引用を見つけて、その時に初めて知ったのですが、そこから、今年の1月に沖縄に行った際、連れていってもらった博物館で志村さんの着物の展示のチラシを見たり、チラッとテレビで拝見したりということが続いて、これは読まねば、と思っていました。

それで、図書館にあったこの随筆を借りて。
もう、凄く良かったです。びっくりしました。こちらが本業では無いなんて、なんてことだ、と思うくらい。

まず何より、使われている言葉と、その言葉の流れが美しい。「胸が波立つほど嬉しく」という表現だとか、ふとした箇所がまた良い。
志村さんの研ぎ澄まされた感性、知性、教養、葛藤、真摯に色に取り組まれる姿勢。
あらゆる点で素敵で、色というもの、染織ということの奥深さも伝わってきて、何より、志村さんのお仕事への取り組み方が、凛としてらして。

頂いた枝から染める、植物から染める、ということ、緑という色、日本の色を残したいという使命感、外国のこと、仏教の色、布のこと。「物を創ることは汚すことだ」という思いと、それでも創りたい、という欲求。

色のことだけではなく、水俣ロシア文学、様々な事柄が糸となって、この随筆の中で美しく織り上げられていくようでした。

志村さん御自身の御言葉以外で印象的だった箇所は、洲之内徹さんという方の、「一枚の絵を心から欲しい、と思う以上に、その絵について完全な批評があるだろうか」という言葉でした。本当に、この通りだな、と思います。
この表現の仕方が本当に好きで、純粋な賛美の気持ちが伝わってくるようで、何故だかちょっと涙ぐんでしまうような気持ちになりました。
紹介されていたこの文を読めただけで、もう、この本を手に取って良かった、と思うくらい。

それから、ゴッホの手紙のくだりも、そのあまりに切実な思いに、思わず涙ぐみました。

物を創る、ということの深さと切実さと恐ろしさと切なさと楽しさと喜び。
そんなものが深く静かに伝わってくるような作品で、もう是非、志村さんの他の作品も読みたい、と思います。
そして、いつか、志村さんの着物も自分の目で見てみたいです。