四十九日のレシピ 伊吹有喜

初めて読む作家さんでした。

([い]4-2)四十九日のレシピ (ポプラ文庫)

([い]4-2)四十九日のレシピ (ポプラ文庫)

題名で、ずっと気になっていたんですよね。
どんな作品なんだろうな、四十九日のレシピってどんなレシピなんだろうな、って。

奥さんを亡くした男性のもとにやってくる、奥さんがボランティアで行っていた施設の教え子と、関わったことのある男の子。

帰ってくる、夫に裏切られた娘。

とても良い作品でした。当たり前のことが出来るようになることが嬉しい、っていう教え子の女の子の気持ちが凄くよく分かるし、亡くなった奥さんの優しい気持ちも伝わってくる。

そして、娘の辛さも、いくつかの印象的な場面で痛いほど伝わってくる。
それから勿論、変化していく、奥さんを亡くした男性。この男性の娘への想いがまた、変に仰々しく無くて、凄くリアルで良かったです。愛情はあるけど、上手く表現できない、でも考えてはいる。

奥さんに繋がれた、縁のある人達の四十九日。出来過ぎなくらいに良いんですけど、ラスト、男性が川に入る場面があるんですね。そこで、その男性の哀しさ、そう思わずにはいられない、というような切実な願望が描かれて、一気に、亡くした悲しみが現実的になるように思いました。
最後の場面で、全ての現実味が出るような。それがまた、それまでの楽しさや明るさをひきたてるんですよね。

そうそう、この男性、娘に対して、「俺には分からん、好きにしろ」「わからんものはわからん。正直に言ってきただけだ」って言ってたんですね。私、これがちょっと苦手で。

私の母も、「意味が分からん」って咄嗟に言うことが多い人なんですよね。これが一番、言われると、もうどうしようもないな、っていう気持ちになります。

そうか、意味が分からないなら仕方ない、という気持ちと、すぐにそう言う、ってことは、分かろうとしてくれる気持ちが無いんだな、という諦めと。
全然、重い意味を持たせてないんだと思うんですけどね、母は。この男性もそうだろうと思います。

分からないから分からないと言う、仕方ないじゃないか、正直に言ってるだけだ、って、言いたいことは分かるんですよね。

でも、自分自身は、それはしたくないな、って思います。なんとか分かろうとして、それでも分からない時にだけ、「分からない」という言葉を使いたい。逆に言えば、それだけ重たい意味を持たせたいんだろうと思います。

分からない、っていう言葉ほど、冷たく感じる言葉も少ないよな、って思うんですよね。そして、分からない、っていう言葉ほど、何も望めない言葉も無いよな、って感じます。寂しくなる言葉だな、って。分かろうという気持ちが無ければ、分かるものも分からなくなる。

人の感情とか、事情とか、出来るだけ分かりたいです。出来るだけ。勿論、全部は無理なんですけど、生きてる限り、プラスもマイナスも、より多く分かるようになりたいです。そうしたら、問題が解決できることが増える気がするし、人を傷つけることも減るような気がして。

話が逸れちゃいました。

良い作品でした。ただの幸せ物語でなく、ただの切ない泣ける話でなく。バランスを取るのが上手い方なんだろうと思います。
この作家さんの他の作品も読んでみたいです。