わたしの三面鏡 沢村貞子

名脇役と言われた沢村貞子さんという女優さんのエッセイです。

わたしの三面鏡 (ちくま文庫)

わたしの三面鏡 (ちくま文庫)

途中まで読んでやっと、だいぶ前の作品なんだ、ってことに気が付いたくらい、今読んでも違和感がないエッセイでした。明治女だから、みたいなことがさらりと書いてあって、あれ?って驚いて慌てて色々と確認したくらい。

役者さんは、来る役が変わることで、はっきりと自分の老いをつきつけられる、という面がある、ということも、新しい人に否応なく譲らなければならない、ということも、喉から手が出る程やってみたい役でも、もう自分には合わない、ということがある、ということも、さらりと書いてあるんですけど、長い間やってこられた人だからこそなんだろうなあ、という書かれ方で、逆に、そうか、役者さんってやっぱり厳しいものでもあるんだなあ、ってしみじみと感じました。

女優としてだけでなく、というか、そちらはむしろ少なくて、日々生活しながら沢村さんが感じたことを書かれていて、読みやすかったですし、年を重ねていくということについて書かれていることを読んでいると、人って弱っていく中でどうやって生きていくかは千差万別なんだろうなあ、って感じました。

「いつまでもこの職業をつづけたい、と願うならー寄りかかるものを決してさがさず、転んでもすべっても、何とかひとりで立ち上がり、昨日は昨日、今日は今日とそのときどきの絵を描いてゆくより仕方がない。」
っていう箇所が好きでした。女優さんとしての文だと。日々の暮らしもそう、って書かれてたんですけど、まさにそうだよなあ、って思います。昨日は昨日、今日は今日、って、その日その日に描ける絵を描いていくしかないんだろうなあ。そして、その絵は、別に連作でなくても良くて、昨日と今日、今日と明日で、全く違う色で全く違うものを描いたって良いんじゃないかな、と思います。

「人間の生き甲斐などという高級なものは凡人にはとうてい見つけられないものと、私はとうにあきらめています。強いて言うなら・・・」この後は昨日の生き甲斐はこれが美味しかったことで、とかって続いていくんですが、ここも好きでした。確かに、生き甲斐なんて、高級なものなのかもなあ、って。私は、自分も、生き甲斐なんてあったらあったで重たそうだし、それを失ったときに辛そうだから、無いほうが身軽かな、って思っちゃうほうなので、共感もしました。

それから、ここで紹介されていた立花隆さんの『宇宙からの帰還』は是非読んでみたいな、って思って、読みたい本リストに書き加えました。本当、宇宙に行って地球を見た人って、その後どうするんだろう。これ、実はずっと気になってたことでもあるんですよね。出来るだけ早く手に入れて読んでみたいです。

巻末には、遠藤周作さんとの対談と山田太一さんとの対談もあって、面白かったです。
遠藤さんは、日本人はこの道一筋ということを強調しすぎ。この道二筋でどうしていけないのか。ということをおっしゃってて、これも、目から鱗が落ちるというか、それに近い気持ちになりました。そうだよなあ、って。

今の時代の感覚からしても、沢村さんも遠藤さんも山田さんも全然、古いと感じないことをおっしゃってて、そのことを凄く新鮮に感じましたし、最近は遠のいていたけど、また少し前の時代の本も読もうかな、っていう気持ちになりました。

正直、沢村さんのことは、御名前を聞いたことがある気がする、というくらいで、女優さんだというのも知らなかったので、題名に惹かれて手に取った本だったんですけど、面白かったです。他の作品も読んでみたいと思います。そして何より、今、筑摩書房さんがこれを選んで出す、って凄い気がします。2014年4月、って本当につい最近、改めて出してあるんだよなあ、と思うと、ちょっとグッとくる。筑摩書房さんの本も、もっと読もう、っていう気持ちになりました。

そして、機会があれば、沢村さんの演技の映像も見たいなと思います。