風車祭 池上永一

風車祭で「カジマヤー」と読みます。

風車祭 上 (角川文庫)

風車祭 上 (角川文庫)

風車祭 下 (角川文庫)

風車祭 下 (角川文庫)

池上さん、初めて読んだ作家さんでした。
石垣島出身の方で、この作品もカジマヤーという数え歳97歳をお祝いする沖縄の祭りをフジという老婆が迎えるまでの物語、とも言えると思います。

ユタとかマブイとか、馴染のある物が描かれていて、なんだか懐かしい気持ちになりながら読みました。ユタというのは民間の巫女さんのような、霊能者のような存在で、沖縄に結構沢山います。何なら一家に一人、一族に一人、いつもお世話になるユタがいる、くらいの勢いで、相談役のような、問題の調整役のような、医者のような、心理カウンセラーのような役割をこなしつつ、巫女さん的なこともしてくれます。まあ、私が知ってる範囲では、なので、他の沖縄の人からすると違うかもしれないんですけど。

マブイは魂のようなもので、驚いたときなんかに落ちることがあるから、どこかにぶつかったり、何かに驚いたら「マブヤー、マブヤー、〜」って、(〜の部分は片仮名にしにくい)って唱えて身体に向かって手をあおぐようにして戻します。
これは、痛いの痛いの飛んでけー、的な感じで、私は使われた覚えがあります。

で、この話は、とにかく異常に長寿に執着するフジという、あくどい性格をしていて、碌な事をしないのに憎めないおばあやその孫息子、こちらで言うと成仏しそこねた幽霊的な女性、六本足の豚、等がそれぞれ好き勝手に動き回りながら、島の危機に絡んでいく、という話だと言えるんじゃないかと思います。

どの登場人物も、ちょっとうんざりするくらい(笑)人間らしくて、皆、沖縄の人っぽさがあるなー!分かる分かる、って面白く読みました。物凄く好感を持てるか、と聞かれるとちょっと答えずらいですが(笑)、生き生きしてるのは間違いないと思います。

そして、方言がまた、流石に上手く書いてあるんですよね。「だからよ」という魔法の言葉が沖縄にはあるのですが(笑)、色々なことを誤魔化し、共感を表しも否定を表しもする、万能すぎて悩ましいこの言葉が上手く使われてあって笑いました。
この言葉は沖縄の適当さをよく表してるような気がします。大抵のことは「だからよ」あるいは、「だからよー(そうそう、そうなんだよね、あなたもそう思うでしょ、等の意。だからねー、などとも言う)」、「だっからよ(否定、憤り等の意)」で済ますことが出来てしまうという恐ろしさ(笑)

こういう混沌とした、適当かつ生命力が強い感じが好きでもあるし、見習いたいところでもあるんですけどねー。
あと、うるさいを「カシマサン!」って言うとか。うちのほうだと「かしまさよ!」とも言います。かしましい、とちょっと似てるんですけど、イントネーションは違います。
方言、私もほとんど分からないんですけどねー。そんな私でも懐かしい気持ちにさせられました。最近、帰れてないからなあ。

南らしい生々しさと荒さと脱力感とキャラクターの強さのおかげで、厚さの割にはスラスラと読めました。
マブイは魂「のようなもの」であって、魂、と説明できるものじゃない、とか、日本の中の沖縄、って意識でいる沖縄の人は未だに少ないんじゃないか、とか、色々ととりとめもなく思いながら読みました。そして、おばあ、怖いよ!凄いよ、そのとにかく長生きすることのみへの執念の強さ!ってちょっと引きつつ、それすらチャーミングに思えてくる不思議さ。

テンペスト」も確かこの方だったと思うので、読んでみたいなと思います。