綺羅の柩 篠田真由美

一昨日、読み終わりました。

綺羅の柩 建築探偵桜井京介の事件簿 (講談社文庫)

綺羅の柩 建築探偵桜井京介の事件簿 (講談社文庫)

私はこの巻、凄く好きでした。マレーシアの密林からかき消えたシルク王。それから三十年後、その失踪の謎に挑む、みたいなことが大まかな筋なのですが、このシリーズらしく、最後は人と人とのそれぞれの想いのすれ違いのようなところに帰ってくるんですよね。

愛情は上手く扱わないと、取り返しのつかない間違いになることがある。それでも、生き残ったほうはその間違いを飲み込んで生きていくしかないし、やっぱり愛情という情は全ての根源であり、逃れることが出来ない、人間の根源でもあるんじゃないか、みたいなことが、私がこのシリーズから一貫して受け取るイメージなんですが、今作もその色が濃いように感じて、好きでした。素晴らしいだけのものでは決してないけれど、やっぱり圧倒的で、しみじみとした趣があって、心を震わせる、生きていく上で欠かせない要素が愛情なんだろうな、って感じて。

結末は哀しいもので、それぞれの人、特に年を重ねた人々の心情を思うと辛くもありますが、生きていれば必ず何かしらあるであろう、取り返しのつかない誤解、というものがくっくりと浮かび上がっていて、印象的でした。

そして、今回つくづく感じたんですけど、私はやっぱり、探偵役の京介と、彼が育てた蒼という、もう少年じゃないか、青年の関係性が凄く好きです。それぞれの登場人物が魅力的なんですけど、この二人の関係性っていうのはやっぱり奥深いなー、と思います。
まあ、私はもともと、恋愛感情や友情、身内としての愛情以外での、誰かが誰かを特別視して大切にする、という関係性に、凄く魅かれるタイプなんですよね、多分。大体、恋愛か友情か家族愛かに入る愛情が、世の中ではほとんどなんじゃないかと感じるんですが、だからこそ、それ以外の愛情による関係性というのが成り立つのか、成り立つとしたらどう成り立つのか、みたいなことに興味があるんだと思います。
そこにこそ、ある意味、情というものの面白みと本質のようなものがあるような気がして。
キンキさんも基本的に、こういう感覚で魅かれてる部分があるように思います。仕事というものがお互いの間に逃れようもなくある、でもそれでいて小さい頃から長い事一緒にいるから、沢山の情もある、っていう関係性ってどんな感じなんだろうな、面白いな、っていうのが凄くあるんですよねー。

建築探偵の話に戻すと、京介の蒼に対する愛情っていうのは、読んでて面白い、というか、ちょっとハッとしちゃうんですよねー。京介が人間とそんなに関わりたくないタイプとして描かれているからでもあるんだと思うんですが、京介と蒼はある意味、お互いに対して盲目的、というか全面的に信頼して受け入れて想っているようなところがあって、ある種の理想だなー、って思います。この二人の出会いから何からを含めた特殊な関係性と、二人共の繊細さとで、考えることはしないやみくもな愛情、という感じには描かれていないのも好きです。

そして、私は基本的に、良い子すぎる書き方をされている登場人物は苦手なタイプなんですが、蒼に関しては素直に読めて、「良い子だ・・・!」っていうテンションになれるので、それもありがたいです(笑)
そりゃあ、こんな良い子に泣かれでもしたら、私もオロオロする!って思うもんなあ。蒼が泣く理由も、変に良い子ちゃん過ぎなくて、自分の感覚と理由がしっかりあって、情の深い子だな、と素直に思えて、良かったです。そして、ここでだけ、蒼に対してだけ、言葉を尽くして、物凄く行き届いたフォローをする京介が本当に、ぶれないな!と感じさせられましたし、台詞の端々に、京介が蒼をどう捉えているかが読み取れて興味深かったです。京介のほうも、蒼という子を信じてるんだよなー。それがこの先どうなるのかなー。深春は相変わらず良い奴だし、神代先生は相変わらずかっこいいし、皆それぞれに個性が強くて魅力的で、関係性も面白く読みやすいので、これからもこのシリーズを読み進めるのが、凄く楽しみです。