殺人鬼フジコの衝動 真梨幸子

今日は、一冊、本の感想を書いておこうと思います。
こちらも、ゴールデンウィークに読んでいた本です。

殺人鬼フジコの衝動 (徳間文庫)

殺人鬼フジコの衝動 (徳間文庫)

いやー、久しぶりに、こういう、どうしようもないくらい転げ落ちてしまう、という作品を読みました。どうしてこうなっちゃうんだろう、というのが分からないまま、ひたすら転げ落ちて行ってしまう、どうしても良い人に出会えない、まるで予定調和のように狂っていってしまう人生。

本人には、幸せになろうという意欲が物凄くあるのに、どうしてもそうはなれない。母親のようにはならない、と思いながら生きていたのに、結局、同じような人生を歩んでしまう。本当に、後味の悪い、悪夢のような人生。

欲望は有り余るほどにあるのに、自分の中身は何もない。身勝手な理由で次々と人を殺していくフジコを、猟奇殺人者のようには感じさせない書き方がしてあるように感じました。丁寧にフジコの心理を追っていってあるから、どうしようもなさが沁みてきて、その心情の動きや理屈が理解出来る、というか、納得させられてしまう。あまりに短絡的で、残酷ではあるんですけど、でも、この女の考え方が、理解は出来るし、嫌悪感、とかいうものを越えたところまで連れて行かれる感じがありました。決して、悲哀を感じる、かわいそうで云々、という感覚にはならないんですけど、これでもか、これでもか、と歯車がかみ合わなくなっていく恐ろしさはと悲しさは、強く伝わってきました。

いじめや虐待の描写も生々しければ、こんなに必死に努力して、幸せになろうとしてるのになれない、という混乱も生々しい。人間の悪意、それも、ただ身勝手であることが結果的にとてつもない悪意になってしまう、という意味での悪意をきっちり叩きつけてあるような作品でした。

ミステリとしては、割と予想していた通りだったのですが、本当に「悪意」というものの形を描くような作品だったように思います。

グロさもえげつなさも、かなりきつめだったので、お薦めしたいような作品ではありませんでしたが、濃度の高さからすると、また、気力があるときに、ふと読む作家さんかな、と思います。