蜩ノ記 葉室麟

GW頃から、バタバタしちゃってて読んだ本の感想を書けていなかったので、読み返したものを含めると、何冊か溜まってしまっています。

試験が終わった今、もう物凄く本を読みたくて(それも、読み返しでなく、未読の本を)、大学で借りてきたのがこの本です。

蜩ノ記

蜩ノ記

ちょっとご縁がある作品だったので。確か、映画化して、V6の岡田さんが出演される、ってどこかで見たような気がします。

昨日は、お友達と美味しいお昼ご飯を食べて、明日のオープンキャンパスでの部活動紹介の打ち合わせをして、岩手でのボランティアの事前研修に行って、大学でやっていたほうのバイトの総括の会と懇談会という名の飲み会に行って、とバタバタしていたのですが、昨日今日で読み切りました。

下に、芸術は命というものを表現するものなのか、みたいなことを書きましたが、逆に言うと、命以外の何を語れば良いのかな、って少し考えたくなるような作品でした。

罪に問われ、十年後の切腹を命じられた男。切腹までのお役目は家譜の編集。彼がどう生きるのか、どう在るのか、という物語なのですが、あらゆる意味で「直木賞受賞作品だな」って感じました。

こうなるんじゃないかな、ということが覆ることは無い、王道、と言っても良いような展開なのですが、それでもきちんと読ませる力があるように思いました。

登場人物があまりにも清く正しすぎて、という面を感じないわけではないのですが、時代物に求められるのはこういう人物像だろうな、と思いますし、ある種の様式美のようなものに触れる清々しさ、安心感があって、読みやすかったです。感情表現が少なめである、ということが、この作品に関しては、凄く良かったように感じました。
ラストは特に、美しく真っ直ぐなけじめでした。これが、葉室さんの美学の結晶なんだな、と感じるというか。

それから、和尚様の、未練が足りないというのは、覚悟が足りない、ということで、
「未練がないと申すは、この世に残る者の心を気遣うてはおらぬと言っておるに等しい。この世をいとおしい、去りとうない、と思うて逝かねば、残された者が行き暮れよう」
という言葉が印象的でした。

未練というのはあまり良いものではなく、未練が無いように逝けることが良い、そうさせてあげないと、というような感覚が、私自身もあるのですが、未練というのは、確かに、残す者への気遣いであって、優しい温度を持つ場合もあるのかな、と感じました。逝くほうからすると、凄く辛いでしょうから、それが「覚悟」だと言われると厳しいですけど。

読めて良かったです!

そして、作品とは別なんですが、やっぱり、恩田さんの作品は、直木賞候補にはなっても、直木賞受賞は難しいタイプなのかもしれないなあ、って感じました。路線に寄るのでしょうが、こういう王道さは、確かに薄いような気がします。