DIVE!! 森絵都

オリンピック時期なので、読み返しちゃいました。やっぱり素晴らしい。

DIVE!! 上 (角川文庫)

DIVE!! 上 (角川文庫)

DIVE!! 下 (角川文庫)

DIVE!! 下 (角川文庫)

オリンピックを目指す、飛込みの選手たちの物語なんですけど、この本は、私にとって、年齢、性別問わずに誰にでも自信を持ってお薦め出来る、数少ない作品です。

王道を面白く書く、って本当に難しいと思うけど、この作品はほんっとに、ただただ面白くて、ページをめくらずにいられないんですよね。勢いがあって、登場人物が本当に魅力的で、彼らの言動に説得力があって、一文一文が上手くて、森さんの作品を十代で読んだ私は不幸だ、って偶に思います。最初に素晴らしいものを知ってしまうと、後で触れるものに満足しにくくなるから。それくらい、面白い。

飛込みは、飛込み台から水面に飛び込むあいだの技や演技を採点されるスポーツです。

高さ10メートル、落下速度時速60キロ、たった1.4秒で全てが決まる競技。

その魅力に取りつかれた少年達が、とても魅力的なんですね。ずば抜けた動体視力を持つ知季、津軽の海で飛んでいた野性的な飛沫、両親ともオリンピックの代表選手だった飛込みのサラブレット、要一。皆、ただの良い子ではなく、爽やかなスポーツマンシップがどうの、ってタイプではないし、しなやかな子たちだから、ど根性スポコン物語にはならない。だけど、皆、飛込みに関してはプライドと、強い思い入れ、目的を持ってる。

代表の決め方だとか、様々なことから、オリンピックってなんだ、スポーツってなんだ、メダルってなんだ、って考え、飛込みを続けることに悩んだりしながらも、何とかオリンピックを、そして飛込みを「自分たちの」ものにしようとする彼らが本当にかっこいい。

私は、飛込みのために、そしてオリンピックのために、恋愛や、旅行、遊びからカロリーの高いものを食べることまで、全てを犠牲にしてきた、そして、物凄くひねくれていながらかっこいい要一君が好きなんですけど、この三人の中で誰派か、っていうので結構その人の好みが分かる気がします(笑)

外部の全てをエネルギーにする知季、内部の全てをエネルギーにする飛沫に対して、要一は「つねに自らを追いこみ、孤独の淵のぎりぎりのところに立って、初めて力を発揮する」タイプなんです。プライドが高くて、ストイックなのに物凄く人間臭い彼は、私が今まで読んだ本の中で、一番好きな登場人物です。

何かあると繰り返し失恋の話をしちゃう知季や、まだ代表に決まったわけでもないのに『オーストラリアなんでもかんでも豆知識』を熟読しちゃう飛沫や、怪我をした知季のお見舞いに胡蝶蘭を抱えて持っていくものの、「すげーいいアイディアだと思っても、苦労してやってみるといまいちだったりすることって、あんだろ」って知季本人に言っちゃう要一の姿が描かれるのがまた、彼らを身近に感じさせてくれるし、くすっと笑えて楽しい。

それから、何よりも良いのは、三人の周りの家族や彼女、実力、才能的にオリンピックにはどうしても手が届かない選手たちのこともきちんと描かれていることです。

選考試合で、「ここにいる全員ががっかりしたとしても、おれだけは絶対にがっかりしない。」と決めている知季の弟や、やめていく選手。
才能、実力的にオリンピックは目指せなくて、悔しい思いをしても、「日本選手権でベストスリー。将来、子供や孫に自慢するには十分じゃないか。」って考えて、日本選手権を目指して飛込みを続けるレイジ。
高所恐怖症なのにクラブに所属し、何か不安なことがあると、何度も何度も飛込んで宙に垂直なラインを刻み続ける要一達の姿に、「世界の軸が真っ直ぐに保たれている」と感じて、しんとした気持ちになる幸也。

皆が、様々な思いを抱えて飛込みに関わってる。応援もしてる。彼らは決して、脇役なんかじゃない。そんな人達が、違和感なくメインストーリーに絡んでくるから、余計にこの作品は生き生きとしてきます。

失敗して、失神したまま水に呑まれる苦しさや、水にたたきつけられてみるみる腫れていく肌。飛込むたびに強まる耳の奥の痛み。つきまとう腰痛。
文字通り胃液を吐くまで練習して、それぞれがそれぞれの思いを抱えてオリンピックを目指す。代表になることが出来るのはたった一人だけ。誰がその代表権を手に入れるのか、最後の最後まで、手に汗握る展開です。

水の競技なので、暑い夏にピッタリの作品だと思います。
機会があったら、是非読んでみてください!