真夜中のパン屋さん 大沼紀子
空いた時間にちまちまと読んでいて、やっと読み終えたんですけど、凄く良かったです。一人でいること、誰かと関わること。そして、運命に捕まること。
真夜中にしか営業していないパン屋さんのお話なんですけど、それぞれの人の辛さを、美味しそうなパンの匂いと暖かさで包み込むような、誰にでもおすすめ出来る作品でした。
- 作者: 大沼紀子
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2011/06/03
- メディア: 文庫
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脚本家でもある方の作品だからか、少し漫画チックなので、普段あまり読書をしないという人も読みやすいんじゃないかな。
好きだったのは、『行為の全ては芸術に通じているが、弘基のパン作りはまさにそれだ。過不足のない祈りのようでもある。』という文章です。すごくよく分かる。
流れるように料理をする人の動作は本当に美しいし、ひたむきに食材に向き合ってるからか、まるで真摯に祈ってるように見える。命につながる行為だからなんでしょうかね。
そして、自分が料理をすることがどうしても嫌なのは、ここら辺のことが関係してるんだと思う。「命」というものを受け入れよう、ってずっと努力してきたつもりだけど、やっぱり、どこかで受け入れきれない。ときがある。昔よりずっと、頭じゃなくて、感覚で理解できるようになったんですけど・・・。食材を慈しむことが出来るようになったら、本当の意味で「命」を賛美できるようになるんだろうな。いつかそんな日が来たらいいな。
それから、「見てしまったら関わらずにはいられない。」っていうのは、偽善でもなんでもなくて、どうしようもない運命のようなものだ、ってことを思い出しました。
苦しみを知ってしまう。叫び声を聞いてしまう。あまりにも理不尽な虐殺を見てしまう。「どうしてこんな風に人が死んでいくんだ。」という衝撃と問い。一度そういう経験をしてしまったら、もう仕方がない。自分が動いても何も変わらないことは分かっていても、何もしない、という選択肢はもう残されていない。そういうものを「運命」と呼ぶんだと思う。本人の意思ではコントロールできないくらいに大きな、あらがえない流れ。