つきのふね 森絵都

つきのふね (角川文庫)

つきのふね (角川文庫)

今日は、この小説を紹介します。初めて読んだのは小学校6年生の時だったかな。それから、年に一度は読み返していて、人に「おすすめの本は?」って聞かれたら、必ずこれをあげています。くくりとしてはヤングアダルト向けの児童書になるんですけど、物凄く質が高い作品です。

森絵都さんはスローペースな作家さんなんですけど、その分、一文一文が研ぎ澄まされてるし、構成も上手いので、大好きな作家さんの一人です。ジャニーズとの関わりでは、KAT-TUNの田中さんが主演された映画『カラフル』の原作者でもあります。

この小説は、ストーリー的には上手く行きすぎな感じもするんですけど、凄くエネルギーがある作品で、言葉ってこんなにも鋭く、自分の奥底まで真っ直ぐに届いてくるものなんだ、って初めて読んだとき、本当に世界が変わったような衝撃を受けました。不意打ちをくらう感じなんですね。全く予期していなかった、自分では防御出来ないような柔らかな場所に触れてくる。

そして、年を重ねれば重ねるほど、より言葉が響いてくるんです。この記事を書くために読み返したら、案の定、ラストで耐えられなくなって、今、半泣きでこれを書いてます(笑)
私は、本を読んで泣くことって滅多に無いタイプなんですけど、この作品だけは駄目なんですよねー、何度読んでも泣いてしまいます。

って、内容にまだ全く触れてなかった。
主人公は、中学生のさくらという女の子です。さくらの親友や同級生の男の子、そして、心を病みかけている智さんと、ウィーンの音楽学校に通っていて、小学生のときに心の病を経験した、智さんの友人の露木さんが主要人物なんですけど・・・、うーん、これ以上はどう書いてもネタバレになっちゃうな。

露木さんの言葉を借りるなら、『人より壊れやすい心に生まれついた人間は、それでも生きていくだけの強さも同時に生まれもっている。』っていう話です。
読み終わった後は、人間はみんな、壊れやすい心を抱えて生きてるんだよなあ、って思うんですけど。

弱い、壊れかけた心を持った人達が、それでもお互いに関わりあって生きていく。人間であることが嫌になって草木に憧れたり、「自分だけが一人だと思うなよ!」と叫ばずにいられなかったりすることもある日々の中で、ギリギリのところで、生きていく。

ラストの手紙がもう、私が知ってる言葉の中で、一番強烈な問いかけでした。ずっと読んでいって、最後にあの言葉、ってもう反則だろう、って思います。今までの読書経験の中で一番、衝撃的で、感動したとかそんなんじゃなくて、言葉の力ってなんて凄いんだろうって、殴り倒されたような気持ちになりました。

なんか、ハードルを上げに上げた文章になっちゃったなあ(笑)
でも、読んでみて損は無いと思うので、もし機会があったら、是非読んでみてください。