木洩れ日に泳ぐ魚 恩田陸

久しぶりに本を読めた・・・。読書は良いなあ、やっぱりなあ。

木洩れ日に泳ぐ魚 (文春文庫)

木洩れ日に泳ぐ魚 (文春文庫)

恩田陸さんは大好きな作家さんの一人です。
六番目の小夜子』 『三月は深き紅の淵を』 『麦の海に沈む果実』 『黄昏の百合の骨』 『木曜組曲』・・・書き出したらキリがないんですけど、題名だけでたまらない、というかこんな題名を付けられてる物語を読みたい、と思わないでいられる物語好きっているのか?と思います。詞的で美しくて、自分の本棚に並べてる恩田さんの作品の題名を眺めてるだけで、幸せな気分になる。

ジャニーズだと、v6さんと一緒にお仕事されたことがありますよね。ドラマ『ネバーランド』の原作者で、主題歌『出せない手紙』の作詞をされてます。これを知ったとき、いいなあ!!って思いました。いつかキンキさんとも何かのご縁があったら、一人ですごくテンション上げます、多分(笑)

で、恩田さんの作品って、本屋大賞をとった『夜のピクニック』を含めて、いくつか映像化されてるんですけど、物凄く映像化に向かない作家さんだと思ってます。
ネバーランド』や『夜のピクニック』もそうですけど、恩田さんの作品って、登場人物の知的な会話や思考や駆け引き、ちょっとした謎にまつわるエピソードが魅力で、派手な出来事があるわけじゃないものが多いんですよね。だから、映像化するとなると、よっぽど良い脚本と演出、役者を用意しないと失敗しちゃう。

大好きな『黒と茶の幻想』は文庫本だと上下巻になってるくらい長いのに、四人の男女が屋久島で登山をしながらひたすら話をしているだけだし、今日読んだ『木洩れ日に泳ぐ魚』は次の日に一緒に暮らしていた部屋を出て、別れを迎えることが決まっている男女がたった一晩、夜通し話をするだけ。二人が部屋から移動することはほぼ無いし、登場人物だって少ない。なのに、全然だれないし、話に引きこまれて一気読みせずにはいられない作品になっていて、さすが恩田さんだな、と思いました。

ある一枚の写真に関する話なんですが、登場人物達の冷静な思考や、ふとしたエピソードからの連想で明らかになる真実、真実だと思われるけれど、もはや確かめようもない事柄が次から次へと出てくるし、駆け引きを繰り広げる二人の関係性も徐々に変化していきます。夢中でページを捲って、たどりついたラストで朝日を見るまで、一行一行が本当に面白かった。

恩田さんの作品はたまに、「オチてない」とか「ラストが・・・。」みたいなことを言われますけど、この作品は皆が納得できるラストなんじゃないかな?私は恩田さんの作品のラストの、変に大円満にならず、物語の続きを予感させてくれるところが大好きなので、ちょっと自信ないですけど。
物語に綺麗すぎるオチがついてると、冷めちゃうことがあるんです。「あー、はいはい、今読んだ話って、作りものなんだよね、結局。」ってなっちゃって。恩田さんの作品は、あくまで登場人物の人生の一部を切り取っただけ、っていう感じで、全てが明らかになったり、納得のいく解決をしたりしない「読者ではなく、物語自身のための物語」なので、興醒めせずにいられます。実際、全てが綺麗に片付くことって、実生活ではほとんど無いし。物語に何を求めるか、っていう問題なんでしょうけど。
そして、恩田さんは安易に「許し」とか「愛情」とかをテーマに据えないし、語らないんです。美しいんだけど、どこか乾いてるし、冷静な文章だから、読んでいてすごく心地良い。情熱的で激しい文章を書く作家さんも大好きだけど、読んでいて心地良い、ずっとこの人の文章を読んでいたい、と思う作家さんは恩田さんだけかもしれない。

まだ読んでない恩田さんの作品がある、っていうことがしみじみ嬉しい。
そういう作家さんがいる、っていうのは幸せなことだなあ、と思います。