ハムレット

この感想を、長い事書けていませんでした。

なんだかもう、自分にとってはあまりに印象深過ぎて、なかなか書きだすことが出来なくて。
でも、剛さんのアルバムの感想と共通する部分があって、剛さんのアルバムの感想を書くためにも、先にこちらの感想を書きたいなと思います。

私が観に行ったのは2月27日でした。
だからもう、4ヶ月以上経ってるんですけど、いくつもの場面が鮮明です。
何より、あんな風に真っ直ぐに台詞が届いてくる、ということが強烈でした。

ハムレットは古典ですし、その苦悩はなかなか、共感しにくいというか、半分おとぎ話のような感覚で見ることになるのかな、と思いながら、そして緊張しながら(笑)大阪の梅田芸術劇場に行ったのですが、もう、とんでもなかったです。

何よりもまず、面白かった。
生で観たらこんなに面白いのか、っていう衝撃がありました。
意外と笑えるところは笑えて、ハムレットの苦悩、王の苦悩、登場人物達の苦悩は、決して、遠い物では無くて。

最初からもう、テンポが素晴らしく気持ち良いんですよね。
自分自身がどちらかと言えば早いテンポで話したいほうなので、それもあると思うんですけど、台詞回しのテンポが凄く良い。噛み合い方も気持ち良い。

あのテンポだからこそ、言葉遊びの楽しさが際立つんだな、と思いました。
言葉遊びの贅沢さ、楽しさときたらまた、それだけでもう大満足だな!という感じで。言葉ってこんなに豊かなんだ、ということを改めて思いました。
私は言葉そのものも凄く好きなので、言葉の豊かさを、役者さんの声という音で実際に聴いて楽しめる演劇の良さを、しみじみと噛みしめました。

そして、やはり私は藤原さんを観に行ったようなものでもあるので(笑)、藤原さんの話になってしまうのですが、もう本当に本当に素晴らしかったです。素晴らしかった。

あの集中力の凄まじさ、エネルギーの大きさ、ほとんど怖いくらいでした。
何者だこの人、なんだこれ、とポカンとしてるうちに否応なく引きこまれて。
完全にハムレットなんですよね。本当に、そこにハムレットがただ「いる」という感じでした。ハムレットがそこに生きて、考えて、行動して、そして死んだ。
最初はやはり、藤原さんの演技として見ようとしている自分がいたんですけど、というか、そう見たかったんですけど、気が付いたらただ、ハムレットを見ていました。

それくらい、ハムレットでしかなかった。これは「演じる」というのとは別の行為なんじゃないか、と思うくらい、ハムレットでしかなくて。
説得力がある、とか、そういう次元でもないんですよね。

やはり、言葉が生きているからなんだろうと思います。
あんな仰々しい、空虚に浮いてしまうか、一生懸命喋っている、ということになってしまっておかしくない台詞が、全部、ただハムレットから溢れ出してくる言葉になってるんですよね。

シェイクスピアならではのあの言葉たちに、飲みこまれていない。言葉に道具にされていない。
自分の中に溢れるものを、喉を通して外に出している、そんな言葉になってる。
母国語でああいう、きちんと意味がある言葉を話すハムレットを見ることが出来る幸せというか、あんな風に、言葉として正確な意味が濃密に込められた言葉の洪水を浴びることが出来る喜びが凄まじかったです。

演劇は凄い、ということも改めて思いました。

苦しむために苦しんでいるんじゃない、状況に苦しめられ、否応なく苦しんでいくしかない、というハムレットに引きこまれて、「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ。」
というあの有名な問いが、話の流れの中では、なんて自然に、そして強く響くんだ、と、これも衝撃でした。

こんな問いだったのか、こんなに真摯に、死の淵をのぞきこもうとするような問いだったのか、ともう、鮮やかで。知っている言葉が、全く違う意味を持つ言葉になる瞬間を体感する、という幸せがありました。
そして、このくだり、凄く共感したんですよね。
死というものについて、こんなに真正面から、真摯に考え、真摯に言葉を発する。素朴で単純なところから、どこまでも素朴なままに考えるからこその強さ。これが出来るのも、古典の強みだろうと思います。
今の、ある意味、成熟に近づいた、と言える社会では、この問いをこんな風には発することが出来ないように思えて。

それから、単純に、藤原さんファンとしては、本当に、嬉しかったです。
ただ、まくしたてるんじゃない。早口言葉が上手いんじゃない、って心から思えて。だいぶハードルを上げてしまっていたので、例によって、開幕前は「ハードル下げないと」って思っていたんですけど(笑)、その必要は全く無かったな、って思います。

独白が凄く良かったんですよね。
勿論、感情のままに相手にぶつける、という場面も凄まじく良かったですが、自分への問いかけが凄く良くて。
あんな風な、きちんとした意味のある、上滑りではない言葉を舞台では聴けるんだ、って強烈に思いました。

そして、自分がいかに半端な言葉を半端に使っていることか、と思って猛省したくなりました。力のある言葉、生きた言葉、正しい意味で使われている言葉、それが、虚構の世界であるはずの舞台上にある、その美しさ。
虚構の世界だからこそ、あそこまで意味のある言葉ばかりが存在することが出来るんですよね、きっと。
それがまた、皮肉で、でも、救いでもあるんだろうと、ぼんやりと思いました。
ある種の舞台の板の上では、一欠けらの嘘も通用しない、存在しえない、という救い。

台詞量が凄まじく多い事だとか、それをあのテンポでやり遂げる凄さだとか、そういうことを、終わるまではほとんど意識出来なかったんですよね。
だから、それに驚いたというよりは、あまりに生身で、そして生身の言葉で、その様こそが「天才」と呼びたくなる役者さんだと思いました。

こういう驚きかたをさせられるとは思わなかった。
藤原さんは映画も最近の作品をいくつか見ていますし、それもそれぞれ良かったんですけど、やはり舞台の人なのかな、とぼんやりと思います。

帰りの新幹線の中でも、なんであんなことが出来るんだろうなあ、と素朴に不思議に思いました。もはや不思議がるしかなくて(笑)
人間っていうのは、底知れないな、って心から思えて、それがまた、背筋が伸びるというか、勇気が出るというか、そんな気持ちになって。
役者さんっていう人種は、なんて凄いんだろう、って改めて思いました。あれを何度も繰り返すだなんて、正気か、という感じで。

そして、何より、何より印象的だったのは、「人間とはなんだ」という場面でした。
あの声、あの音が、未だに、耳に残っています。そして、思い出すたびに心臓が震えるような気持ちになります。
心からの声。人間とはなんだ、というのは、あの場面においては、人間である自分とはなんだ、ということであり、自分とは何だ、何であるべきだ、という問いでもあったように思います。
本当に、ハッとしました。他者に対する問いかけではなく、自分に対する問いかけである、「人間とはなんだ」という言葉の威力。
それも、なんとなくふと考える、とか、哲学的にどうか、とかということではなくて、状況の中で、自分の今後の行動に迷い、自分がどうあるべきか、という事に悩む中での問いであるからこその威力。

しかもあれは、自分にとっての「正しい」、というか、あるべき人間の姿とはなんだ、ということまで含まれているように思うんですよね。あの流れ、あの膨大な台詞、言葉の積み重ねの上に、「人間とはなんだ」という問いが来る。ハムレットは自分に対して問うているんですけど、それを見ているこちらに対しても、「お前はなんだ」「お前という人間とはなんだ」と強烈に問いただされているような気持ちになりました。
人間とはなんだ、という問いは、ハムレットの問いであり、私の問いでもある、というか。

ハムレットを思い出すとき、瞬時に、あの「人間とはなんだ」という藤原さんの声が聴こえるんですよね。
あの、藤原さんの化け物のような、あてられるような集中力。

ハムレットが、ただの悩む男ではなく、感情的なだけでもなく、真摯な、物凄く魅力的な王子に見えて、これは藤原さん効果なのか、他の役者さんでもそう見えるのか、と気になります(笑)
って言っても、上にも書いたように、真面目一辺倒で、清らかなだけの台詞ばかりじゃないんですけどね!
その適度な品の無さも含めて、娯楽として一流だな、と思いました。流石、長い間愛されているだけある。
それから、相変わらず、藤原さんは殺陣が上手い。もともとの動体視力とか、運動神経も良いんでしょうね。
綺麗なだけでなく、力みすぎていなくて、物凄く好きです。

藤原さんのことばかり書いてしまいましたが(笑)、蜷川さんの、これは明らかに海外に出すことが意識されている・・・!っていう演出も面白かったし、他の役者さん方も、それぞれに良かったです。

行けて本当に良かった。嬉しかったです。
そして、生で見聞きすることの良さを改めて知って、出来るだけ機会を逃さずに、舞台やコンサートに足を運びたいなと思いました。

なんだか全然、書き切れていないような気もするんですけど、きっと、どれだけ言葉を尽くしてもあの感動を書ききることは出来ないような気がするので(笑)、ここまでにしておきたいと思います!やっと書けて良かったです!