ZERO

一昨日は、ZEROのハムレット特集を見ました。

私は、キンキさんもそうですが、思い入れがある人が出ている番組を見るのには緊張してしまうほうなので、今回も凄く緊張しながら見始めたのですが、すぐに惹きこまれました。

やっぱり、藤原さんと蜷川さんの俳優と演出家としての関係性は底知れないものがあります。見ていると、ただの俳優と演出家、というだけではないものがあるように感じるんですよね。

・冒頭から、「声が汚い、ガマガエル!」「馬鹿!才能無し!」と蜷川さんに怒鳴られる藤原さん。相変わらずすぎる。

・稽古初日の数日前に入院されていた蜷川さん。不安そうにドアを見つめる藤原さんの表情、そこに、酸素吸入チューブをつけて、車椅子で入ってこられる蜷川さん。「本当は俳優に同情されるからこういう姿で入るのは嫌なんだけど、まあかっこ悪くてもいいかと」とお話されている蜷川さんを見つめる、泣きそうな程に辛そうな藤原さんの表情。

もうこの場面だけで、伝わってくるものが多すぎました。
藤原さんが蜷川さんに14歳で見出されてから18年間、勿論、私は断片しか知りませんが、決してお互いに甘えず、馴れ合いはせず、それでいて深い信頼関係を築いてこられた、まさに師弟、という関係のお二人だと思います。
お二人のインタビューとか、お互いを語る様子とか、本当に良いんですよね、毎回。蜷川さんの容赦のなさも、藤原さんの真摯な態度も。

そんなお二人だからこそ、藤原さんの表情の辛さがより迫りましたし、私自身、細くなられた蜷川さんのお姿に、胸が詰まりました。

・と、思ったら、本読みの段階から蜷川節健在すぎて。相変わらず、明確で、かつ、端的、的確な指導と、それにすぐに反応される藤原さん。お二人は本当に、作品や稽古に対する真っ直ぐさがずっとずっと変わらなくて、それが尊すぎて、ずっと見ていたくなります。

・「千本ノック」と言われる蜷川さんの稽古を、「自分に関しては千本どころの騒ぎじゃないでしょう」「皆、愛情だって言うんだけど、僕からすると、どうも愛情を越えてる」とちょっと苦く笑って話される藤原さん。そうですね、藤原さんに関してはもう、千本どころの騒ぎじゃないだろうなあ。

・14歳のオーディションの映像や、最近の映画の映像が流れた後での、蜷川さんのインタビュー。
「飽きません?藤原竜也の演技に。」
「なんでいつも同じ音出して同じ喋り方するんだろうと常々思ってる」とおっしゃる蜷川さん。

おっしゃることは分かる、少なくとも世間で注目されるようなのは、似た系統の役が多いのもあって、その傾向があると思います。

が!ここで私は思いました、流石蜷川さんだ、と・・・!
藤原さんをそう演技する俳優に育てたのは、確実に、間違いなく、蜷川さんなのに・・・!と!(笑)
それなのに、今の藤原さんを全否定、流石すぎる、容赦というものがない!

今まで自分がどう言ってきていようが、駄目だなと思ったら駄目だ、とさらりと言ってのける蜷川さん、流石すぎる。
多分、今までの経緯からして、藤原さんの演技自体が悪い、と思ってらっしゃる、ということは無いんでしょうけど、より先、より先を、と思ってらっしゃるんだろうな、と思ったら、「もうそろそろ、もっと上手くなってほしいな」とちょっと茶目っ気のある言い方をされる蜷川さん。
そういうことなんだろうなあ、それを土台に、ってことなんでしょうねー。

感情を爆発させることが出来る、というのが藤原さんの演技の美点の一つだとされていますし、私も、自分が好きになる最低限の基準ってそこら辺なんじゃないかなー、ってぼんやりと思っています。剛さんに関しても、これは強く思います。まず、感情を爆発させることが出来ること。それが出来ない、行きつくところまで出せない人も多いからこそ、それだけの集中力とエネルギーとギリギリ感がある人に惹かれるんですよね。

ということで、私自身は、今の藤原さんの演技も好きなんですけど、藤原さん御自身は、確か、映画か何かの現場で「蜷川芝居をするな」と言われることもあったり、自然な演技が出来る俳優さんを凄い、とおっしゃってたり、今回、インタビューで話されてるように、「俳優として苦しくなる一方」で、「もう自分も通用しなくなってるな、っていうのも分かってるし」っていう意識でやってらっしゃる。

私、藤原さんのこういう所が本当に好きです。今の、お仕事が途切れている訳でも無く、作品が酷評されている訳でもない現状で、こんな意識を自分自身で持ってらっしゃる。

以前からずっと、藤原さんは自分に対して客観的で、かつ、追い込まれ慣れているからなのか(笑)、自分に対して手厳しいんですよね。まあいいや、ということが無い。
そして、どんなに周りに良く言われても、自分で強烈な危機意識を持ち続ける。
賢い方だな、と思います。

そして、こういう方だからこそ、今まで自分を育ててきた、演劇の世界の親のような存在である蜷川さんに全否定されても、崩れないでいられるんだと思います。
藤原さんは以前から、過去の良かった作品の話をされると、もうずっと前の話だよ、もういいよ、って嫌がられるんですよね。
あれだけ実績がある方なのに、それに頼る、縋る、ということがない。常に、今の自分が、今この瞬間、板の上で何が出来るか、ということにしか価値がない、と思ってらっしゃる。やはり舞台で育った方なんだな、って感じますし、そういうところが本当に好きです。

・蜷川さんの指導場面。
私、蜷川さんが指導の時に使われる言葉が凄く好きなんですよね。罵倒も味があるなと思うんですけど(笑)、今回だと、「世界一悲しげに言うんだよ!」とか、「熱心にやりすぎ もっと冷静に話せば言葉が通じるのに」とか、「衝動だけでしゃべってる音は、言葉の内容を伝えないんだよ」とか。
蜷川さんは、言葉を使いこなしてらっしゃるな、っていつも感じます。凄く好きです。

・藤原さんに対して、延々と厳しい指導が続く。
何故?という問いに、蜷川さんは、「自分も不老長寿じゃない。良い俳優になってほしいんだよね、竜也に。絶対良い俳優じゃなきゃ困る。」とおっしゃいます。

この、「絶対、良い俳優じゃなきゃ困る」っていう言葉に、まず、愛情を感じます。それから、藤原さんと蜷川さんの関係性だからこその責任、というか、思い入れの強さも。
藤原さんは、それこそ他の現場で「蜷川芝居」と言われるくらい、蜷川さんの呼吸や感覚、美意識が練り込まれた俳優でもある、そういう存在でもあると思うんですよね。

そして、蜷川さんも藤原さんも、多分、それを自覚してらっしゃる、ように見えます。だからこそ、よりお互いに対して真剣になる、という面もあるんじゃないかと思います。

藤原さんはお若い頃から、蜷川さんの舞台に出る際、蜷川さんの名を汚せない、ということをよく口にされてた印象があるんですよね。
藤原さんの真っ直ぐな気迫、妥協しない姿勢、っていうのは、「蜷川幸雄の愛弟子」ということを背負い続けているからこそ、というのもあるんじゃないかな、と感じます。自分が思いっきりやれば良い、とかそんな話じゃない、主演の自分が悪ければ、演出家の蜷川さんが悪いことにもなる。そういう状況で、自分以外の、それもお世話になってきている、物凄い人の評価を背負ってやっていく、っていうのは、相当なことだと思うんですよね。本当に勝手な印象なんですけど!
でもそれくらい、蜷川さんというのは、藤原さんの中で、核となる、大きな存在になるしかなかった方なんだと思います。
そして、そういう方がいらっしゃることが、藤原さんにとっては、大きなプラスでもあるんだろうなという印象を受けます。

それから、多分、濁らない藤原さんの姿勢、真っ直ぐさと集中力があるからこそ、蜷川さんもあそこまで愛情と思い入れを持って接してらっしゃるんじゃないかと思います。もう18年ですもんね。その間、お二人の師弟関係が歪んでいないこと自体が、凄いことだと思います。

・稽古終盤の場面。ここが一番、揺さぶられました。
蜷川さんが、「竜也」と呼びかけるんですね。そして、「内面だけを追ってると表現全体に届かなくなる 外だけを追ってると中身の無い演技になる」とおっしゃいます。頷く藤原さん。
ここだけでもう、なるほど、と思うんですが、「崖から落っこちるときは一緒に落っこちるから」とおっしゃって、本当に本当に愛情のある、どこか朗らかな笑顔で「・・・やんな」って柔らかくおっしゃるんですよね。
もう、蜷川さんの藤原さんへの愛情と信頼、期待、そういうものが本当に伝わってくる場面でした。

藤原さんの、必死に蜷川さんに応えようという思い、蜷川さんの理想、それも、藤原さんを想ってのものでもある理想を体現しよう、現実のものにしようという必死な姿勢と、蜷川さんの愛情に満ちた厳しさと。今までずっと続いてきているお二人の尊さすら感じる関係性が、どうかこれからも、ずっとずっと、長く続いていきますように。どうか、お身体お大事になさってください。お二人とも。

・ラスト、「今からですよ、ここを原点にしたいくらいです。これ(ハムレット)があって、新しい自分が生まれて、この先の人生を歩んでいく。過去の物なんて消え去ってますから、僕は。」と笑っておっしゃる藤原さん。この、過去に縋らないでいられるだけの努力を積み重ねる正しい強さ、真っ直ぐさ。何より、蜷川さんによって生み出された藤原竜也さんという俳優が、また新たに、蜷川さんによって生みなおされる、に近いようなこの状況。蜷川さんも藤原さんも、今まで築き上げてきたものに囚われず、躊躇せず、壊して、また新たに築くことを繰り返してきた、そういう強さに満ちた方々なんだよな、と今回、改めて強烈に感じました。

このタイミングでのこの作品を、自分の目で見ることが出来る。それが本当に嬉しく、ありがたいです。
今月末まで、心の準備をしておきたいと思います。