死刑弁護人

昨日は、『死刑弁護人』という映画を見てきました。

オウム真理教事件和歌山毒カレー事件、名古屋女子大生誘拐事件、そして、光市母子殺害事件。これらは全て、死刑事件であり、その全ての裁判を担当してらっしゃるのが、安田好弘弁護士です。64歳。とてもその年齢には見えない、強い目をした方です。

『極悪人の代理人』、『人殺しを弁護する人でなし』、『悪魔の弁護人』と言われながらも死刑弁護人であり続けるのは何故なのか。どんな信念を持ってらっしゃるのか。ずっと気になっていたんですが、安田弁護士はマスコミが嫌いな方なので、ほとんどメディアには出ておられないし、本もほとんど書いてらっしゃらなくて、どんな方なのか、詳しく知ることが出来ないでいました。

なので、今回の機会は絶対に逃したくなくて、色々と調整して行ってきました。
今回の映画はドキュメンタリーで、東海テレビさんが作ったものになります。


私は、映画を見る前に、安田弁護士が書かれた本を読んでいたので、映画の内容には無理なくついていけましたが、一つ一つの事件について少しずつ触れる、安田弁護士の紹介映画のようになっているな、と感じました。

感想としては、安田さんほど、弁護士に向いてる人はそうそう居ないだろうな、ということを一番強く感じました。依頼人を信じ、助けるために全力を尽くす。事実を追い求め、検察や裁判所の言うことを丸ごと信じるようなことはしない。ああ、この人はプロだな、と感じました。多分、弁護士として一番正しい姿勢だと思う。

その姿勢や、安田さんの人柄には好感を持ちましたが、人は必ず更生出来るものだ、というお考えには共感できませんでした。庶民である人々は、ある意味簡単に動くもので、良い方にも悪い方にも動くものだから、っていうことだったんですけど、安田さんは、仕事以外のことで、どうしようもない人に理不尽に苦しめられ続けたことが無いのか、それとも、そういう経験があってもなお、人を信じておられるのか、質問したくなりました。

映画の後にはトークショーがあったんですけど、監督さんとプロデューサーさんも好感を持てる方々で、こうやって、真摯に番組を作ってらっしゃる方々がいる、っていうことを知ることが出来て良かったな、と思いました。メディアに関するお話や、会社の中での動き方についてのお話が、とても興味深かった。

安田さんの、メディアには全く期待していない、これからもどんどん悪くなるだろうと思ってる、っていうお話も含めて。

安田さんの話し方は、周りの方に好かれるだろうな、と素直に思える、真摯なもので、この人の信念、生き方っていうものを否定する権利は、誰一人持ってないな、と思いました。真実や事実なんてものは、どう頑張ったって明らかになるものじゃないけど、安田さんはそこを目指してらっしゃる。その姿勢や生活は尊いな、と思いましたし、必要な人だと思いました。

もし、質問する機会があったら、「被害者と加害者の命は、同じ価値を持つものであると思われますか。」と聞いてみたかったです。もし、両者の命に平等の価値があると考えるのなら、殺したほうは死刑判決を受けるしかないんじゃないか、と思うので。殺したほうだろうが何だろうが、生きてる者の命が大事だと言うのなら、殺されたほうの命の価値はどうなるんだ、加害者の命より軽く扱われるのか、と思ってしまう。

それから、「依頼人を疑ったことはありますか。」ということと、「更生の可能性が全く無いと思われるような被告に会ったことがありますか。」ということは聞いてみたかったなあ。どれも、初対面で、軽々しく聞いていいようなことでは無いな、と思うし、自分が向き合っていかないといけない領域の話だとは思うんですけど。沢山の人を見て、会って、話してこられた安田さんだからこそ、聞いてみたかった。

トークショーの質問者は皆さん、こういう路線の質問では無かったですし、下手したら、折角の和やかな雰囲気を壊してしまいそうな質問なので、しないで良かったな、って後で思ったんですけどね。皆さんの質問も、お答えも、興味深かったですし。

今回は、本当に滅多に無いだろう、安田弁護士の姿を見て、お話を聞く機会を持つことが出来て良かったです。

映画でも、安田弁護士の色々な表情を見ることが出来ました。ただ、安田さんは「これは自分を題材に撮ったもので、自分自身では無い。」というようなことをトークショーの冒頭でおっしゃってましたし、その通りだろうな、とは思ったんですけど。そうおっしゃるのを聞いたときに、安田さんのこういう感覚と、それを言葉にするところ、好きだな、と感じました。

あー、人間ってなんだろうな、どこまでいくもので、どんなものなんだろうな、って改めて疑問に思いました。

人の命って何なんだろうな。国民皆の税金で、死刑囚を殺す死刑制度を、やみくもに否定することも、簡単に肯定することも出来ない。でも、明確な理由を持って肯定することも難しい。権利と義務、加害者と被害者、そして遺族。人の命の重さをどう考えるのか。命の価値が重いからこそ死刑が必要なのか、重いからこそ、廃止すべきなのか。冤罪率をどう考えるのか。そして、法って何なのか、何のために、誰のためにあるのか。勉強したいことが沢山ある。

色々とまた頑張ろう、って改めて思う日でした。